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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)5008号 判決 1960年2月19日

東京都荒川区日暮里町五丁目八五七番地

原告

長谷川文子

右訴訟代理人弁護士

高橋喜一

東京都杉並区阿佐谷三丁目五一三番地

被告

株式会社プロメエマルジョン研究所

右代表者代表取締役

長谷川清

右訴訟代理人弁護士

津田勝三

檜山雄護

右当事者間の昭和三二年(ワ)第五、〇〇八号株主総会決議無効確認等請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

昭和三二年三月二九日招集された被告会社の臨時株主総会においてなされた長谷川清、所一義、師尾精三、松本実を各取締役に、藤井光男、篠原幸作を各監査役に選任する決議は存在しないことを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、被告会社は発行済株式の総数二、〇〇〇株、資本の額一〇〇万円の株式会社である。原告はその株式九一〇株を有する株主であつて、設立当初から代表取締役であつた。

二、昭和三二年三月二九日原告の招集によつて臨時株主総会が催された。同総会において被告会社を解散し、原告を清算人に選任する決議がなされた。

三、然るに原告が不知の間に、東京法務局杉並出張所において昭和三二年三月二九日訴外長谷川清、同所一義、同師尾精三、同松本実を各取締役に、訴外藤井光男、同篠原幸作を各監査役に選任した旨の登記がなされている。

四、右の登記にある取締役及び監査役の選任決議は前記総会においてなされたことはない。よつて原告はこの決議の不存在の確認を求めるため、本訟に及んだ。

立証として(中略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、原告の主張事実一、のうち原告の株数を除きその他の点は認める。原告の株数は三〇〇株である。原告の主張事実二、のうち本件総会が開催されたことは認めるが、決議の点は否認する。原告の主張事実三、の登記のあつたことは認める。

二、原告は役員改選の件その他を会議の目的事項として本件総会を招集し、同総会において原告の主張する取締役及び監査役の選任が付議せられ、原告の反対があつたが、多数決で可決されたのである。

よつて、この決議は適法に成立したものであるから、原告の請求は失当である。

立証として(中略)

理由

原告が被告会社(発行済株式の総数二、〇〇〇株、資本の額一〇〇万円)の株主であつて、その設立当初より代表取締役であること、原告の持株数が少なくとも三〇〇株あること、及び昭和三二年三月二九日原告の招集によつて臨時株主総会が開催されたことは、当事者間に争がない。

右株主総会において被告主張のとおり訴外長谷川清、同所一義、同師尾精三、同松本実を各取締役に、訴外藤井光男、同篠原容作を各監査役に選任した決議があつたか否かの点について判断すると、被告の右主張にそうような甲第一号証及び乙第四号証の各記載並びに被告代表者の供述があるが、これらは証人湯浅安子の証言、原告本人尋問の結果及び被告代表者の本人尋問の結果、一部と対比して信用することができず、かえつて右の証言及び本人尋問の結果によると、右株主総会において議長である原告が同総会の議題である被告会社解散の決議が成立したとして、適法にその閉会を宣言し会議場より退席した、株主である訴外長谷川清は会社解散に反対の態度を表明し、なお総会が終了しないとして乙第六号証の一ないし一〇の委任状によつて本件取締役及び監査役の選任決議が成立したとして議事録(第四号証)を作成したことを認めることができる。従つて、本件決議は、議長である原告の閉会宣言後、即ち本件株主総会終了後一株主である訴外長谷川清によつて決議されたものとして議事録が作成され、同人によつて被告主張の登記がなされたものであるから、本件決議に関与したとする株主の株主権の有無を判断するまでもなく本件決議は何等法律上存在するものとは認められない。その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 長谷部茂吉

裁判官 上野宏

裁判官 篠原弘志

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